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2011年04月08日
本日(4月7日)大方の予想通りECB(欧州中央銀行)が政策金利を1%から1.25%へ引き上げました。
ECBの利上げは2008年7月以来で、3月のユーロ圏の消費者物価上昇が2.6%と、目標の上限の2.0%を上回ったことが理由です。これはユーロの価値の維持にはインフレ抑制が最重要である、というECBの姿勢の現れです。
もうひとつ、4月6日にポルトガル政府が欧州連合(EU)へ金融支援を要請しました。これによりユーロ加盟国の財政危機問題が一巡したと市場には安心感が広がっているようです。
ユーロ圏では、昨年5月にギリシャ、11月にアイルランドが財政危機から金融支援を受けたのですが、この時はユーロ圏のほかの国にも広がる懸念があり、それらの国の国債が暴落したりユーロ通貨が急落したりしました。
今回は、ギリシャ危機のときに作られた欧州金安定基金(EFSF)による支援の仕組みが定まっていたことと、次の財政危機はポルトガルとスペインだと言われていたのですが、最近スペインの方は各種改革を打ち出して安定しつつあるため、今回のポルトガルの支援要請で一応危機が一巡したと思われ、今回のユーロ高となっているようです。
ここで、EUとECBは「経済成長よりインフレ抑制を優先する」と「加盟国の財政危機にはユーロの仕組みと同じ仕組みで対応する」の2つのメッセージを発信したわけです。
前者はともかく、後者は分かりにくいと思いますので説明します。
欧州金融安定基金(EFSF)は、財政危機に陥ったユーロ加盟国に貸付ける資金を調達するために市場で債券を発行するのですが、この債券はECB出資比率に応じてユーロ加盟国全体で保証します。
資金量はEFSFの4400億ユーロに、IMFの融資分などを合わせて合計7500億ユーロあります。ただEFSFは債券発行体として格付けをAAAに維持するため、実際の債券発行額は2500億ユーロ程度が上限となるようです。
今回のポルトガル支援に必要な金額は600億から800億ユーロと言われており、とりあえず問題なく対応できそうです。(ギリシャ支援の1100億ユーロは別枠だったようです)
ついでに、ユーロ加盟国のECB出資比率を主要な国だけ挙げておきますと、ドイツ27.13%、フランス20.38%、イタリア17.91%、スペイン11.9%、オランダ5.71%となっており、ポルトガルは2.51%でした。
今年1月からバルト諸国のエストニアがユーロに参加しているため、これらの比率はほんの少しずつ少なくなっているはずです。ちなみに現在、ユーロ加盟の条件である「財政赤字がGDPの3%以下」を守れているのは、なんとこのエストニアだけだそうです。
エストニアはユーロに加盟するために大変な緊縮財政を行い、経済成長が大幅マイナスになってしまったそうです。
欧州金安定化基金に話を戻しますが、債券発行をするときユーロ加盟国が上記の比率に基づいて保証をするのですが、その保証額は債券の額面の120%です。
と言うのは、今回ポルトガルを支援するために債券発行するのですが、その債券の一部(2.51%)はポルトガル自身が保証しているので「のりしろ」をとってあるのです。
そういう意味では、スペインが財政危機に陥ったら影響は大きかったことになります。
そもそも、ユーロというのは域内の経済の後進国でも、先進国並みの金利で資金調達ができ、これらの国は身の丈以上の発展を遂げたのです。
域内では為替レートはもちろん固定されており、政策金利も同一のため、気がつくと財政赤字や貿易赤字が巨大になってしまった国も、金融引き締めとか為替切り下げという処方箋が使えないため、今回のような危機が起きるのです。
さらにユーロ圏としては、経済成長よりインフレ抑制を優先するため、結果として経済成長による税収増加で財政危機を克服することも非常に難しいのです。
欧州金融安定基金による救済メカニズムも、ユーロ圏全体の信用力(つまりドイツ・フランスの信用力)を使って有利に調達した資金で、同じユーロを構成する財政危機を起こした国を救済するという一種のマジックなのです。
これが先程いいました「ユーロの仕組みと同じ仕組みで対応する」なのです。
つまり、ユーロというのは、本来はもっと高金利にしなければならない国と、本来はもっと為替を切り下げなければならない国を抱えたまま、表面的には最上格のドイツ・フランスと同じ信用力の金利と為替水準を維持しているのです。
ユーロの将来に漠然とした不安を感じます。
対ドルで、1ユーロ=1.43ドル台、対円で1ユーロ=122円台は、とりあえず目先天井のような気がします。
平成23年4月8日
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