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米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その3

2012年08月29日

米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その3

 具体的にFNMAとFHLMCの救済方法を見ていきましょう。

 まず2008年7月30日に「住宅公社支援法」が成立します。これは両社の督権権限を完全に新設する連邦住宅金融庁(FHFA)に与え、財務長官に両社への融資限度(当時は22億5000万ドルずつだった)を「無制限に」引き上げる権限と、財務省に両社の株式を臨時に取得する権限を与えました。後の2つは2009年12月31日までの暫定措置でした。

 しかし当時は、権限が与えられたと言っても連邦住宅金融庁(FHFA)とは、はなはだ頼りなかった前身の連邦住宅公社監督局を改称しただけで依然として両社に「弱腰」であり、財務省も「無制限の融資」をちらつかせるだけで危機が沈静化すると思っていたようです。

 ところが両社の「資産内容の劣化」「資金繰りの悪化」「株価の下落」が一向に止まらず、ついに2008年9月7日(日曜日)に両社の「公的救済」が発表されます。この内容は最後まで両社に全く知らさられず、両CEOに「全面承認のための取締役会の招集」と「クビ」が告げられたのが9月4日の夕刻でした。

 この「公的救済」の最重要ポイントは、財務省が両社それぞれ1000億ドルを上限に上位優先株式を購入し(つまり資本注入)、同時に両社の普通株式の79.9%を購入する権利(ワラント)を得ると言うものです。

 つまりそれまでの「無制限の融資」だけでは資本の増強にはならず、しかも2009年末までの暫定措置だったので、ほとんど効果が無かったからです。

 そして財務省(つまり米国政府)が購入する上位優先株式には10%の配当が支払われるのですが、両社が既に発行している普通株式や優先株式などは無配となりました。つまり法的整理ではないので既存の普通株式や優先株式が「消滅」したわけではないのですが、実際にはほとんど無価値となりました。両社の普通株式は2010年7月に上場廃止(時価が1ドルを回復できなかったため)となりました。

 ただ財務省(米国政府)も10%の配当を得ると言っても、つい最近まで毎四半期ごとに追加で上位優先株式を購入しており(つまり毎四半期ごとに追加の資本注入が必要だった)、その残高が両社で1900億ドル近くになっていました。ほとんど当初の上限(1000億ドルずつ)に近づいていたのですが、オバマ政権になってから念のために2000億ドルずつに引き上げられていました。

 それ以外に、財務省(米国政府)が両社の保有する住宅ローン関連証券(MBS)を取得することになっていたのですが、これは巧みに2008年11月~2010年6月のQE1としてFRBに1兆2500億ドルもの住宅ローン関連証券(MBS)を取得させてしまいました。  

 その「かなりの部分」がFNMAとFHLMCの保有していた証券だったはずです。つまりQE1とは、確かに景気を回復させるための金融量的緩和だったのですが、その「本来の目的」はこの両社の公的支援策の重要な一環だったのです。もちろん現在もこれらMBSはFRBの資産にしっかりと組み込まれています。

 付け加えますと、これはFRBの権限内で行われている対市場オペレーション(資産購入)なので、その「損失」はFRBの責任(結局は税金ですが)となります。

 つまり米国政府は、健全な住宅ローン市場の壊滅を防ぎ、1兆ドルを超える両社債券を保有する海外投資家に対する体面を保つという「国策的見地」から、FNMAとFHLMCを「丸抱えで救済」したのです。

 今年になって8月17日に、財務省は公的資金の「回収」を強化すると発表しました。今まで上位優先株の10%の配当だけを回収していたのですが、両社の全利益を回収するとしました。ようやく毎四半期ごとに追加で上位優先株式を購入する必要が無くなったからのようです。

 両社の収入は「住宅ローンの保証料」と「保有する住宅ローン関連証券のポートフォリオと調達コストとの利鞘」なのですが、後者については意味が無くなっているため2008年には1兆8000億ドルほどあったポートフォリオを2022年までに5000億ドルに減らすことになっていました。因みに2012年6月末現在では1兆2541億ドルになっています。

 これを2018年まで前倒しします。つまりポートフォリオの売却は利益ではないのですが、その売却代金も回収するのです。しかし財務省の出資分を回収するために、また新たに7500億ドルほどの住宅関連証券が市場に出てくることになります。

 次回はAIGの救済についてです。

 結論だけ言っておきますと、すべて2008年の9月に起こった救済劇の中で「米国政府が暗黙に保証していた」FNMAとFHLMCの救済は「特別なもの」だったことは分かるとしても、純粋の民間企業のなかでもAIGの救済は同時並行だったメリルとリーマンと全く違っています。

 さらに昨日書いた2008年3月にJPモルガンに救済合併されたベアー・スターンズも、メリルやリーマンと随分違っているのですが、これは単純に米国金融界の状況が悪化していたからです。

 メリルとリーマンの「運命が違った理由」も次回にします。

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■為替・金融 » ドル | 2012.08.29
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米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その2

2012年08月28日

米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その2

 昨日の続きです。FNMAとFHLMCの救済劇について書き始めたところでした。

 2007年8月9日に、仏銀最大手のBNPパリバが傘下のモーゲージ担保証券に投資する3つのファンドを凍結したと発表します。欧米金融機関の「問題発覚」第1号でした。

 この日を境に欧米の信用市場が急速に逼迫して、モーゲージ関連の巨額損失が相次ぐことになります。しかしNYダウが最高値の14164ドルをつけるのは、その2か月後の10月9日のことでした。

 よくこの金融危機はサブプライム問題だと言われるのですが、正確に言うと2007年時点で13兆ドルに上った米国内の全モーゲージ(住宅用と商業用の合計)の担保不動産の価値が2兆ドルほど下落し、その2兆ドルを全世界(特に欧米)の金融機関が負担したという構造と言えます。ピークの残高が1兆3000億ドルだったサブプライムローンは、引き金にはなったものの問題のすべてではありません。

 それよりも特に欧州の金融機関がこれらの損失をすべて表に出していないとも言われ、不動産市況の更なる下落が、再度の金融危機を引き起こす構造は何も変わっていません。

 しかし当時のモーゲージ市場の混乱は、かえってFNMAとFHLMCのシェアを上げるという皮肉な現象となり、新規のモーゲージ組成に占める両社の割合が危機前の46%から76%へ跳ね上がっていました。それだけ社債発行による資金調達と(いくら低い自己資本比率が認められているとはいえ)資本増強が必要となってきていたのです。

 しかし2008年3月にベアー・スターンズが行き詰まり、最終的にJPモルガンが救済合併するのですが、最後になってジェイミー・ダイモンCEOが300億ドルの不動産関連資産(商業用と住宅ローン担保証券)の引き取りを拒否します。

 そこでこの資産を担保にニューヨーク連銀から300億ドルの融資することにした(つまり最終的な損失をFRBに押し付ける)のですが、当然にFRBは損失が発生した場合の補填を財務省に求めます。それよりも銀行持ち株会社でない投資銀行のベアー・スターンズにFRBが「いくら担保があるとは言っても」融資すること自体が非常に「無理筋」だったことになります。

 ところが財務省は反財政赤字法により議会が認めていない「損失補填」ができません。そこで苦し紛れに、財務省の「FRBの措置を支持する」という曖昧な書簡(注)と、モーゲージ運用大手・ブラックロックのローレンス・フィンクCEOに書いてもらった「十分な調査をしたところ、融資は十分な担保によって裏付されている」というもっと曖昧な書簡と、最後の最後にジェイミー・ダイモンが呑んだ11億5000万ドルの劣後ローン(つまりこの金額までの損失はJPモルガンが負担する)の三点セットで強行してしまいました。

(注)こういった書簡は当時の財務長官ヘンリー・ポールソンの「得意技」のようです。その後、モルガンスタンレーの株価が急落している時にも三菱UFJに対して「米国政府は海外投資家の投資活動を支持する」という曖昧な書簡で、まんまと1兆円を投資させています。

 そしてこの300億ドルの資産はMaiden Lane LLC(Maiden Laneはニューヨーク連銀の前の通りの名前です)というSIV(特別目的会社)が保有し、FRBの資産にしっかりと計上されています。そしてこの方式はAIG救済の時にも使われるのですが、これはAIG救済のところで解説します。

 だいぶ話が横道にそれてしまったのですが、要するに不動産とモーゲージを取り巻く市況が日に日に悪化していく中でFNMAとFHLMCの資金調達(増資と債券発行)も非常に困難となってきます。両社の決算も赤字が続き、2008年7月11日には両社の株価が急落してFNMAが10.25ドル、FHLMCが7.75ドルとなりました。

 その時点からホワイトハウスと財務省は、両社を公的救済するために議会と折衝を始めます(注)。その理由は間違いなく「米国政府が暗黙に保証」していると理解されている両社の発行ないし保証する債券が5兆ドルあり、少なくとも1兆ドルは海外投資家が保有しており、まさに「米国の信用」が問われることになるからでした。

(注)米国の行政の最高責任者は大統領で、その下に財務省など各省庁があり行政の実務を行います。一方大統領には議案提出権がなく、法律改正や新規立法はすべて議会の権限となります。議会はまさに「有権者の利益を代表して」これらの立法に当たります。つまり米国では、政府(行政・大統領)と議会(立法)の関係が非常に明確に分かれているのです。

 とにかく米国政府としては「救済」以外の選択肢が無かったのですが、問題が山ほどありました。ホワイトハウスが共和党のブッシュ政権(しかも任期があと半年もない)で、議会が民主党に過半を握られていることもあったのですが、それよりも両社や住宅関連事業に関係する議員も多く、政府の介入を快く思わないのが議会の基本的な考えでした。

 さらに両社に対して唯一法的監督権限のある連邦住宅金融庁(FHFA)も、その7月に設置されたばかりでお世辞にも強大な権限があるとは言えませんでした。

 まだまだ続きます。

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