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米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その5

2012年08月31日

米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇  その5

 このシリーズの最終回です。これまでは米国政府が「民間企業」であるはずのFNMA、FHLMC、AIGを、新しい法律を作ってまで「公的救済」してきたことを書きました。

 しかし投資銀行に対しては明確に「公的救済」を拒否していました。1999年に投資銀行と商業銀行の兼業を禁止していたグラス・スティーガル法が完全撤廃されたのですが、金融危機当時の投資銀行の専業大手は(財務体質の弱い順に)ベアー・スターンズ、リーマン・ブラザース、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスでした。

 まさにこの順番で経営危機が露呈し、2008年3月にまずベアー・スターンズをJPモルガンが吸収合併しました。今から考えるとJPモルガンが、一番最初に一番良い条件で投資銀行を手に入れたことになります。

2008年9月になってリーマンとメリルが危機に陥ります。問題はこの時点で「吸収合併」する体力がある金融機関がバンカメしか残っていなかったことです。

 バンカメは西海岸を発祥とするバンク・オブ・アメリカの持ち株会社の名前ですが、その実態はノースカロライナ州・シャーロットで開業し、全米で数多くの銀行を吸収合併して巨大化して行ったネーションズバンクでした。

 その時点では投資銀行業務をほとんど行っておらず、最初リーマンの吸収合併を勧められても全く興味を示しませんでした。しかし2008年9月14日に「かなり唐突に」メリルの吸収合併を決めます。

 メリルはもともと個人営業に強みを持っていたのですが、何故か当時のスタンレー・オニールCEOが「狂ったように」MBS業務にのめり込み、急速に財務体質が悪化していました。そのオニール退任後にCEOとなったのがゴールドマン・サックス出身でNYSE・ユーロネクストCEOだったジョン・セインです。

 セインは「瀕死の」メリルを何と500億ドルでバンカメに売りつけます。その時点のメリルの時価総額を70%も上回っていました。同年3月のベアー・スターンズの救済でも、同時並行のリーマンの救済でも、必ず「保有するMBSの含み損」が最大の問題となったのですが、非常に不思議なことにバンカメのケネス・ルイスCEOがこの点を問題にした形跡が全くありません。

 まあ「ゴールドマン・サックスで揉まれたジョン・セイン」に「規模だけ大きな田舎の銀行トップのケネス・ルイス」が、まんまと言いくるめられたのでしょう。

 さすがのケネス・ルイスも同年12月になって、メリルの直近の四半期決算が220億ドルもの赤字になることを知って「騙された」と気がつきます。合併は2009年1月1日付けでした。そこで不測の事態が発生した時に買収を撤廃できるMAC条項の適用を真剣に考えるのですが、既に両社の株主総会が承認しているためどうしようもありませんでした。

 米国政府はTARPからバンカメに200億ドルの追加出資(優先株の引き受け)を行い、何とか予定通りに合併を完了させました。しかしジョン・セインは合併数日前の年末に巨額のボーナスを自分やメリル社員に支払い、合併直後にさっさと辞めてしまいました。

 さてバンカメが興味を示さず「進退が窮まっていた」リーマンに、運命の2008年9月14日のほんの数日前に「思わぬ話」が飛び込んできました。英国のバークレイズが興味を示してきたのです。

 実はリーマンの最大の問題は、すでに救済合併されていたベアー・スターンズも含めた他の投資銀行に比べてMBSの資産内容が「飛びぬけて悪かった」ことで、バークレイズも520億ドル相当を買収対象から外してきました。その520億ドルはどう見ても100億~170億ドルもの含み損を抱えていました。

 最終的にバークレイズは運命の2008年9月14日の当日になって「英国当局が承認しない」との理由で断ります。ロンドン証券取引所の上場基準では一定以上の買収に対しては株主総会の決議が必要とされているのですが「例外は認められない」というものでした。

 ただ後から考えると、仮にバークレイズが了承していても取り残される100億~170億ドルの含み損を抱えるMBSは結局処理できず、いずれにしてもリーマンは「破綻」しかなかったような気がします。

 しかし当時の財務省、FRB、金融界の落胆は大きく、さらにバークレイズが破綻後のリーマンを格安で買収していったため「英国に嵌められた」と感じたはずです。その「怨念」が今年になって突然のLibor不正操作事件となって、バークレイズ、ロバート・ダイヤモンドCEO(当時は交渉の前面に立っていた社長)、アリスター・ダーリング財務大臣(最後通告をした担当大臣)らへの「復讐」をしているような気がしてなりません。

 5回に渡って4年前の米国金融危機を振り返ってみました。本当はモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスも「かなりの危機」だったのですが、紙面の都合でまたの機会にします。

 昨年4月26日付け「三菱UFJ銀行モルガン・スタンレー証券の巨額損失の裏側 その2」に、三菱UFJの米国モルガン・スタンレーへの1兆円出資の裏側を書いてありますので読んでみて下さい。

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■為替・金融 » ドル | 2012.08.31
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米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇 その4

2012年08月30日

米国金融危機で「あまり説明されていない」救済劇 その4

 4日続けて同じ話題なのですが、どうしても本日を入れてあと2回となります。

 米国金融危機で「最も危険だった日」は2008年9月14日(日曜日)のはずです。休日にもかかわらずリーマンが破産申請し(実際に破産法の適用を申請した時は日付が変わっていました)、メリルがバンカメの傘下入りを決めた日です。

 ところが恐らく、この日の米国当局にとっての「最大の恐怖」はAIG(American International Group)だったはずです。少なくとも前年までは「世界で最も強大な保険会社」だったはずのAIGは「いつの間にか」巨額な不動産関連の不良債権を抱え込み、さらに巨額のCDS(Credit Default Swap)を引き受けており、「膨大な追加保証金」などで資金繰りが急速に悪化していました。

 つまりこの日(9月14日)になってやっと、資金ショートが500億ドルにのぼり9月17日にも破綻することが「わかった」のです。

 AIGの生命・損害保険契約者は数千万人にのぼり、個人年金の保証金額も数百億ドルに達していました。1兆ドルのバランスシートを持ち、大規模なデリバティブ事業を通じて世界中の金融機関・政府・企業と取引がありました。間違いなくシステミックリスクがあり、FNMAとFHLMCと同じように米国政府として「潰せない」企業だったのです。

 ところが翌9月15日(月曜日)にAIGは格付各社によって格下げされたため、膨大な「追加担保」が新たに発生し、資金ショートが850億ドルにもなってしまいました。

 ここにきてFRBは、AIGの保険子会社などを担保に850億ドルの融資に踏み切ります。条件はLIBORプラス8.5%(!)で期間が2年でした。

 もちろん保険会社はFRBの融資対象ではなく、あくまでも「緊急時でかつ十分な担保があれば」という例外措置の発動でした。この時点ではFRBですら「AIGは資本不足ではなく、単なる流動性不足である」と信じていたようです(注)。

(注)ガイトナーNY連銀総裁(当時)は、「健全な保険会社の上にヘッジファンド(本社)が乗っかっているようなもの」と絶妙の説明をしていました。

 ところが、そのAIGは2008年通年で992億ドルという「途方もない赤字」を出し、間もなく「資本も全く不足している」状態であることが分かり、後日難産の末に発効する7000億ドルのTARP(Troubled Asset Relief Program・注)から438億ドルもの資本注入を受けることになります。

(注)一度否決された後、2008年10月2日に上下院で同日に承認されました。ちょうど大統領選の直前だったため、格好の政治材料に使われたようです。その名の通り最初は「不良資産買入れ基金」だったのですが、その後より大きな効果が見込まれる「健全な金融機関への資本注入」に使われます。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーもそれまでに銀行持ち株会社になっていたため資本注入を受けることが出来ました。
 しかしその後は、このAIGやGMや(健全な金融機関として資本注入を受けた後、さらに資本不足に陥った)シティやバンカメなどへの「後ろ向きの資本注入」にも使われることになります。

 このAIGに対する438億ドルの資本注入の際、(資本注入の窓口である)FRBがSIV(特別目的会社)のMaiden LaneのⅡとⅢで、AIGのMBSやCDSを525億ドル分引き取ります。同年3月にベアー・スターンズのMBSを300億ドル引き取った時に作ったSIVの別シリーズです。

 同時に最初の融資850億ドルの金利・LIBORプラス8.5%も、LIBORプラス3%まで下げました。これはその後の資産売却などで返済されています。

 つい先日の2012年8月23日に、このMaiden Laneの資産売却が完了し94億ドルの利益が出たことが発表されていました。最初にMaiden Laneで引き取ったベアー・スターンズのMBSはまだ評価損となっているようです。

 ここで同じように2008年9月14日時点でFRBの融資対象でなかったリーマンとメリルが、なぜ同じように救済されなかったのかを考えてみましょう。

 それは最初から「民間で解決するもの」と決められていたからです。つまりこれら投資銀行はAIGやFNMAやFHLMCと違って、不特定多数の米国民を危機に陥れることはなく、また米国や世界の金融市場は揺るがせても「米国やドルの信認が揺らぐ」ほどのものではなく、逆に「国民の税金が毀損した時のダメージ」の方が大きいと判断していたとしか考えられません。

 もちろん米国政府は、メリルもリーマンも救済に向けて努力を惜しまなかったことは事実ですが、それはあくまでも「どこかが救済合併できるように取り計らう」ことでした。

 それでは次回はこのシリーズの最終回として、メリルとリーマンの救済の舞台裏を詳しく書くことにします。

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