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2012年08月07日
シャープの株価が下げ止まらず、本日(8月6日)の引値は181円となり時価総額は2010億円まで落ち込みました。
シャープは本年3月27日に、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループ4社に合計で(増資後の議決権比率)9.9%の第三者割当増資を行い、669億円を調達するIRを出しました。
また同時に、シャープが92.96%を保有するシャープディスプレイプロダクト株式会社の持分の半分を660億円で鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴー)会長に売却することも併せて発表しています。
このIRが出た直後はシャープの株価は600円台を回復していました。
ところがシャープの2012年3月期の決算予想は本年2月に2900億円の赤字と下方修正されていたのですが、実際の赤字は3760億円となり、さらに8月2日に発表された2012年4~6月の決算も1384億円の赤字となりました。
2012年6月末の時点で純資産が4788億円、現預金が2200億円、これに対して有利子負債が1兆2500億円(うち来年9月償還の転換社債が2000億円)、液晶パネル在庫を中心とする棚卸資産が5100億円もあります。かなりの「危機的状況」と言えます。
そこへ8月3日になり、鴻海精密工業が3月に合意した第三者割当増資の合意内容の見直しを「合意」したと発表し(シャープは否定)、一気に不安が出て株価急落となったわけです。
そこで3月27日のIRをもう一度よく見てみました。
当時から指摘されていたのですが、不思議なことに第三者割当の「募集の概要」にある「払込期間」が平成24年5月31日~平成25年3月26日とされています。
これには「各国の競争当局の企業結合に関する届出許可等が得られ次第、速やかに払い込まれる予定です」との注釈がついています。日本と台湾の独禁法にかかる許可のことだと「推測」されるのですが、別に合併でもなく、主要株主に当たらない9.9%の株式を取得するだけなので「正しい理由ではない」ような気がします。
要するに「払い込みはIR発表後1年経過するまでの間に行う」としておきながら、「払い込み価格の見直し条項を何も入れていない」ということは、最初から「値下がりしたら払い込みませんよ」ということなのです。
実際に鴻海精密工業は、IR発表後にシャープ本社と出資予定の子会社にそれぞれ10人以上の「精鋭部隊」を常駐させており、1円も使わずにこれらの「中身」を完全に精査し、今後の「あらゆる事態」に有利な立場を確保しているのです。
そもそも鴻海精密工業としても、最初から9.9%という「中途半端な資本参加」が本来の目的でなかったはずです。まあ「丸ごと格安でとるか、手に負えなかったら1円も使わずに撤退する」だったはずです。
シャープにしても「9.9%という実質的には何の意味も無い株主になってもらい、鴻海の名前を利用して、銀行などの交渉を有利に運びたい」という思惑もあったはずです。
問題は、IR発表時にシャープが「鴻海精密工業の意図を正しく理解していたのか?」です。場合によっては「虚偽開示」となります。
こういう意味で、問題が大きくなっていくような気がします。
これに非常によく似たケースが過去にあります。
1997年に日本長期信用銀行(現・新生銀行、以下「長銀」)がスイス銀行(SBC)と、2000億円の増資引き受けを含む資本業務提携契約を締結していました。これもSBC側としては「取り敢えず手を挙げて中身を徹底的に精査し、だめなら1円も使わずに撤退する」だったはずです。
実際には1998年3月期決算で大蔵省(当時)が突然資産査定の基準を厳しくしたため、長銀は「決算が大幅赤字になる可能性が出てきた」と(多分)業務提携契約に基づいてSBCに通告しました。
ところがSBCは即刻に資本業務提携を破棄し、ついでに長期信用銀行の株式を「大量に空売り」したのです。これで200円前後だった株価が50円割れとなり、あえなく長銀は破綻してしまいました。もちろんSBCが道義的なものも含めて、その責任を追及させることはありませんでした。昨年1月12日付け「あらゆる失政が凝縮された日本長期信用事件 その1」、同1月13日付け「同、その2」に詳しく書いてあります。
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