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2015年10月30日
昨日の続きです。2015年9月末現在の中国人民銀行の総資産の79.2%に相当する25兆8244億元(485兆円)が外貨資産であると書きましたが、この数字は中国の外貨準備に等しいはずです。中国では外貨はすべて中国人民銀行が一元的に買い入れることになっているからです。
ところが同じ2015年9月末の外貨準備は3兆5141億ドルとも発表されているため、割り算をすると1ドル=7.35元で計算されていることになります。現在の人民元の対ドルレートは最近下落したと言っても1ドル=6.4元前後なので、3兆5141億ドルが正しいとすれば中国人民銀行の外貨資産は22兆4900億元ほどとなり、ほんの3兆3300億元(62兆6000億円)ほど過剰に計上されていることになります。
つまり評価損(為替損)を計上していない明らかな粉飾決算ですが、問題はこの粉飾決算の中国人民銀行が中国の中央銀行であり、今般IMFにより国際通貨のお墨付きを得る人民元の発行体であることです。
余談ですが日銀も保有資産の時価評価をしていませんが、それでも外国為替(外貨資産)だけは評価しているようです。今のところ日銀の保有資産である国債やETFはかなりの評価益となっていますが日銀のバランスシートも結構ブラックボックスとなります。
中国人民銀行に話を戻します。もっと不思議なことに中国の外貨準備が最高額の3兆9932億ドルとなった2014年6月時点の中国人民銀行の外貨資産は27兆2131億元だったため、この時点では1ドル=6.81元で計上していたことになります。当時の人民元は1ドル=6.2元前後だったため、平行移動させているわけでもなさそうです。
ただこれはあくまでも中国人民銀行の外貨資産の為替評価だけの問題です。
もっと心配なのはその中身です。よく言われることはあれだけ巨額の外貨準備を抱える中国の米国債保有額が日本とほとんど変わらないことです。どちらも1兆2000億ドルほどですが、中国は民間の外債投資が規制されているため中国人民銀行が外貨準備として直近で保有する3兆5000億ドルほどのなかに米国債が1兆2000億ドル(直近はさらに減少しているはず)しかないことになります。
普通は外貨準備の6~7割がドルであり(日本はほとんど100%がドル)その大半が米国債となるはずで、どう考えても1兆ドルほど少ないことになります。
よく聞くのは、中国政府は米国政府やFRBを信用していないためベルギーの保管機関であるユーロクリアに預けているという「迷解説」ですが、どこに預けようと最終的にはFRBに登録されるため意味がありません。
要するに中国の外貨準備のうち少なくとも1兆ドルほどが何だかわからないことになります。もちろんドル以外の資産も何だかわかりません。
ここからはあくまでも本誌の推測ですが、中国としての対外投資は政府が外貨準備を使って一元的に行っているはずですが、投資損失や共産党幹部の横領や海外権力者に支払った賄賂などで消えてしまった外貨資産が、すべて「額面」で計上されたままのような気がします。
逮捕された周永康の一族が日本円で1兆円以上横領していたと言っても、厳しい外貨規制を潜り抜けてすべて海外に送金していたとは考えにくく、外貨準備を使った海外投資をそっくり懐に入れていたと考える方が自然です。
つまり中国の外貨準備は、投資損や横領や賄賂でかなり毀損していることになります。
最大の問題は、中国経済の信用の裏付けになっている中国人民銀行の外貨資産が、その為替評価だけでなく中身にも大きな評価損を抱えた粉飾決算であり、その中国人民銀行が発行する人民元にIMFが国際通貨としてのお墨付きを与えてしまったことです。
人民元が中国国内だけで通用するローカル通貨(不換紙幣)であるだけならそれほど大きな問題ではありませんが、IMFの今回の決定はその弊害を国際経済に波及させてしまう恐れがあります。
決して大げさではなく、そういうパンドラの箱をIMFは開けてしまったのです。
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2015年10月29日
昨日付け「ここまできた国際機関の迷走」で、IMFが人民元をドル、ユーロ、円、ポンドと同じようにSDR構成通貨に加えて国際通貨と認める決定を批判したのですが、本日はその人民元をめぐる話題です。
人民元を発行する中国人民銀行の準備資産の大半が外貨(しかもその大半がドル)となっています。2015年9月末現在のその総資産は32兆6038億元(613兆円、同時期の日銀は365兆円)ですが、その79.2%に相当する25兆8244億元(485兆円)が外貨資産です。
つまり中国経済とは「ドル本位制」であり、これ自体は中国経済がドルの信用にタダ乗りしている以外は、とくに悪いことではありません。ただ中国経済とは常に外貨(ドル)が流入していないと発展しない構造となります。
中国政府は1994年頃から人民元を極端に割安のまま放置して、さらに2006年頃からドルに対して緩やかに上昇させて(それでも人民元が割安であることは同じです)、加速する貿易黒字と海外からの直接投資により流入する外貨(ドル)を中国人民銀行が一元的に買い入れ、その外貨を準備資産として中国内の信用創造を行い未曾有の経済発展を遂げました。
中国の外貨準備は(人民元をドルに対して緩やかに上昇させるようになった)2006年の1兆ドルから加速しており、2014年6月には3兆9932億ドルのピークとなりました。つまり中国政府は人民元がドルに対して確実に値上がりすると保証しているようなものだったため、外貨流入に加速がつき中国経済の拡大も加速していったことになります。
ところが人民元は2014年1月の1ドル=6.04元を高値として上昇を止め、時には緩やかに下落することもあったのですが、中国政府は2015年8月に「自ら」人民元をドルに対して下落させてしまいました。
といっても最近でも人民元はせいぜい1ドル=6.4元前後で、決して他の新興国通貨のように急落しているわけではありません。
しかし中国政府は、人民元がドルに対して確実に値上がりすると保証していたところから、2014年1月に人民元の値上がりを止めてしまい、2015年8月に「自ら」値下げしてしまったことになります。
そこで中国に流入するだけだった外貨が一気に逆流をはじめ、拡大一辺倒だった中国経済の拡大が一気に止まってしまいました。
これが中国経済減速の根本的背景です。
つまり(誰が決定者であるのかは不明ですが)、すでに上昇を止めていた人民元を2015年8月に「自ら」下落させてしまった決定こそ、世紀の愚策だったことになります。
というのは2015年7~9月の貿易黒字は1635億ドルもあり、2015年1~6月の2637億ドル、2014年通年の3800億ドルに比べて明らかに加速しています。これにはたしかに2015年8月に人民元を下落させた効果でもあるはずです。
ところが中国の外貨準備は2014年6月の3兆9932億ドルのピークから、2014年12月に3兆8430億ドル、2015年6月には3兆6938億ドル、2015年9月には3兆5141億ドルと減少に転じているだけでなく、だんだんその減少が加速していることになります。
つまり貿易黒字が拡大すればするほど外貨準備が減少していることになり、外貨流出が加速していることになります。これこそ人民元を「自ら」下落させてしまった世紀の愚策の結果となります。
中国政府は今でも民間の外貨保有・対外投資を制限しているため、中国国内の外貨総量は中国人民銀行の準備資産に「ほぼ」等しいはずです。
外貨準備は2015年7~9月に1797億ドル減少しており、この間の貿易黒字は1635億ドルもあるため(中国はサービス収支が赤字なので経常収支はこれより少ないはずですが)、差し引きで3000億ドル近い外貨が中国から流出してしまったことになります。
米国財務省はこの2015年7~9月期に中国は2290億ドルものドル売り・人民元買い介入を行ったと発表していますが、ほぼ辻褄があいます。中国は民間保有のドルがないはずで、中国国内で人民元を外貨に交換する(ドルを買う)需要があれば、その外貨(ドル)はすべて中国人民銀行が外貨準備を取り崩して対応するしかないからです。
まだまだ中国の外貨事情には数多くのミステリーがあるので、明日も続けます。
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