Archive
闇株新聞 the book
闇株新聞 the book 発売中です。 よろしくお願いします。 |
|
2016年02月09日
経営危機に陥って産業革新機構のお世話になるしか方法がないと思われていたシャープに、台湾の鴻海グループの郭(ゴー)会長が猛攻撃をかけています。
先週末の2月5日には、その郭会長が直接シャープ本社に乗り込み、8時間半もの攻防の末に優先交渉権を得たと取り囲んだ記者に話していました。しかしシャープは即座に「そんな事実はない」とのIRを出して否定しています。
この構造は大変にわかりやすく、シャープ現経営陣の残留を条件に入れている鴻海案はシャープ現経営陣にとって捨て難く、郭会長に決断を迫られてつい「お願いします」と言ってしまったのでしょう。産業革新機構の提案では、現経営陣は即刻交代となっているからです。
ところが確認文書を求める郭会長に対し、シャープ経営陣は「そんな重大なことを自分たちだけで決めた」となるとあとでどんな責任が発生するかわからず、とりあえず曖昧な(いざという時の責任が明確でなく何とでも都合よく解釈できる)文書にだけ署名して渡したのでしょう。
そこにはお互いの守秘義務も盛り込まれていたはずですが、郭会長がその直後に待ち構えていた記者に喋ってしまったため、青ざめたシャープの経営陣は大慌てで否定のIRを出したのでしょう。
実際に署名した文書は、たぶん郭会長が記者に話した内容とシャープがIRした内容の「中間くらい」だったはずで、優先交渉権とは書かれていなかったような気がします。それだと産業革新機構などに根回し(言い訳)が必要となり、シャープの現経営陣だけでは署名できないはずだからです。
つまり優先交渉権を得たというのは、郭会長の「確信犯的フライング」だったはずです。油断も隙もありませんが、典型的サラリーマンのシャープ現経営陣は(これからも)手玉に取られるはずです。
そうはいっても産業革新機構は上から目線で「支援してやるのだからありがたく思え」というような対応のはずで、これにはシャープ現経営陣もカチンと来ていたのでしょう。産業革新機構の支援金といっても国民の税金です。
ところで鴻海は成長資金5000億円を含む総額7000億円を投入し、事業の切り売り(ソーラーパネルだけは整理)、人員整理、債務切捨てなどを行わない提案のようです。産業革新機構は3000億円を出資し、銀行には2000億円(優先株)の無償放棄と新たに1500億円の債務株式化を要請しています。
鴻海と産業革新機構の提案は簡単に比較できるものではありませんが、鴻海は現経営陣の残留のほかにも銀行保有の優先株(2000億円)買取りも水面下で銀行に打診しているようで、まず現経営陣と銀行を味方につけて有利に立とうとしています。
さてあれだけ日産自動車をルノーに売り渡してしまった当時の日産自動車経営陣を(その1人が産業革新機構の志賀俊之会長です)批判している本誌なので、シャープに関しても当然「鴻海に売り渡すなどとんでもない」となるのかというと、実はそうでもありません。
シャープに関しては、単純に「条件の良い方に決めるべき」と考えるだけです。
ということは(仮に条件が悪いとして)産業革新機構が官邸や経済産業省に「泣きついて」政治力でひっくり返すようなことも控えるべきと考えます。
もちろん鴻海でも産業革新機構でも、シャープが再生できて高収益会社に生まれ変われば出資分は大きな価値に化けることになり、それが鴻海の出資分だったら「日本の財産にはならない」のですが、現時点ではどちらが支援したら株価が上昇しそうか(その前にどちらが支援したらシャープは生き残れるのか)で考えるべきです。
シャープの現経営陣は、自分の首が大事であることはわかりますが、どちらにしても決定に至った判断材料を数字とともに既存株主や世間に明確に説明する必要があります。
冒頭に書いたように経営危機に陥ったシャープは産業革新機構のお世話になるしか方法がなかったところ、たまたまアップルからの発注減と中国生産拠点のコスト高に対応しなければならない鴻海が猛攻撃をかけてきたわけで、単純に僥倖と喜ぶべきです。
ここは冷静に(あまり主観を入れずに)成り行きを見守ろうと思います。
Ads by Google
| Comment:12 | TrackBack:0
- 関連記事
-
- 日産を取り戻すどころか三菱自動車まで取られてしまった -2016/05/13
- 「瀬戸際」のサハダイヤモンド その2 -2016/05/12
- 「瀬戸際」のサハダイヤモンド その1 -2016/05/10
- まだまだ目が離せないシャープ -2016/03/30
- シャープの「偶発債務」とは? -2016/03/22
- オリンパス事件の光と影 その21 -2016/03/08
- オリンパス事件の光と影 その20 -2016/02/26
- シャープを巡る鴻海の猛攻撃は僥倖と考えるべき -2016/02/09 ««
- 安直に引き受けてはならない米本社が売却する日本マクドナルド株式 -2015/12/24
- ここからの東芝 その2 -2015/12/22
- ひとまず安泰なのか? 日産自動車の命運 -2015/12/15
- ここからの東芝 -2015/12/09
- 早く何とかしないと日産自動車が食い取られてしまう! その2 -2015/12/02
- サハダイヤモンドの臨時株主総会 その2 -2015/12/01
- とうとう出てしまった東芝・第三者委員会の出来レース -2015/11/20