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2016年07月15日
オランダのハーグにある常設仲裁裁判所(以下「仲裁裁判所」)が7月12日、中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」との判断を示しました。
これは中国の主張する管轄権に対し2013年にフィリピンが「国際法に違反している」と仲裁裁判所に判断を求めていたもので、その判断は「予想をこえて」中国の主張を否定するものでした。
これを受けた中国は電光石火のごとく動き、同日中に「南シナ海の領土主権と海洋権益に関する声明」を発表し、改めて中国は南シナ海において2000年以上活動していたとして主権と関連する権益の有効性を主張し、さらに9か国語に翻訳して文書で各国に配りました。
また中国は同時に、今回の仲裁裁判所の仲裁人の任命は(申し立て時に)国際海洋法裁判所所長だった柳井俊二氏(元・駐米大使)が「一手に取り仕切った」とし、仲裁裁判所の判断は日本の謀略であるとの「見当外れの言いがかり」まで加えています。
ここで米国は国際海洋法条約を未締結であるため、この言いがかりの矛先は米国に向かわず国際海洋法裁判所に最大の資金を拠出している日本が(最も提訴されている国だからです)中国最大の攻撃対象となってしまいます。
つまり中国はこの仲裁裁判所の判断を徹底的に「不当」「無効」と決めつけて無視するつもりで、南シナ海における軍事施設の建設などを控える気配はありません。それではこの中国の「強気の根拠」とは何でしょう?
まず2013年に仲裁裁判所に申し立てた時のフィリピン大統領はアキノ氏で、決して親中派ではありませんでした。ところが現在のフィリピン大統領は本年5月の大統領選で下馬評を覆して当選したドゥテルテ氏で、明らかな親中派です。
今回の判断に対するドゥテルテ大統領の声明は大変に控えめで「中国と対話を重視する」というだけで、中国からの公私の「見返り」を期待しているようです。そもそも「たまたま」親中派のドゥテルテ氏が大統領に当選したと考えない方がいいようです。
こういう海(公海)の領有に関する係争を裁くのは国際海洋法裁判所であり、その上級司法機関は国際法全般を裁く国際司法裁判所であるところ、なぜアキノ大統領(当時)は仲裁裁判所に申し立てたのでしょう?
それは仲裁裁判所の判断に対しては当事国に上訴権がないことに加えて、仲裁裁判所は国際海洋法裁判所や国際司法裁判所と違い国連の管轄下にないからです。
国連の管轄下にある国際海洋法裁判所や国際司法裁判所は、その判決を順守させる最終権限は国連安全保障理事会にあると考えられますが、中国は常任理事国なので拒否権があり結局は何の拘束力もなくなります。ましてや(本年12月までの任期ですが)潘基文・国連事務総長は全く無能で極めつけの親中派です。
つまり国際海洋法裁判所を避けたアキノ大統領(当時)の深慮遠謀も、肝心のフィリピン大統領が親中派になったため意味がなくなってしまいました。仲裁裁判所の判断はあくまでも当事者国間で(つまり中国とフィリピンの間で)話し合って解決するための指針に過ぎないからです。
今回の仲裁裁判所の判断には、台湾が実効支配する太平島が「島」ではないとして排他的経済水域を認めないとの判断が含まれています。現在の台湾は親中派ではない蔡英文政権ですが当然に「受け入れない」と反発しており、ここでは中国と台湾に「妙な連帯感」が出てしまいました。
日本でも沖の鳥島が「島」として排他的経済水域を主張していますが、これはチタン合金で補強した「岩」であると逆に台湾などから提訴される恐れが出てきました。その経済的排他水域で台湾の漁船を拿捕したこともあるからです。
こう考えてくると今回の仲裁裁判所の判断は中国に対する何の抑止力にもならず、とくに日本にはいくつかの「とばっちり」が出てくる可能性まであることになります。
ましてや11月8日の米国大統領選挙で親中派のヒラリー・クリントンが選ばれてしまう可能性が高まっています。ヒラリーに対しては、私用メール問題でFBIが早々と「不起訴」とし、現職のオバマ大統領が在任中に異例の支持を表明し、とうとう最後まで争ったサンダース候補も支持を表明するなど、現時点でトランプを大きくリードしていると考えます。
1月12日付けで書いた「China 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」は着々と進展しているようです。それが改めて確認できた今回の仲裁裁判所判断後の中国の対応でした。
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