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2016年10月27日
昨日(10月25日)ケース・シラー住宅価格指数(8月)が発表されました。代表的な全米主要20都市の住宅価格指数が前年同月比5.13%の上昇となりました。
実はこのケース・シラー住宅総合指数は、FRBの金融政策に大きな影響を与えているはずで、本誌も大変に注目している指標です。
2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授らが考案した徹底的な実地調査に基づく住宅価格指数で、競売や家族間取引など指数をゆがめる事例は慎重に除外されています。また地方も含めた全米指数(四半期毎の発表)や都市ごとの指数も発表されています。
米国は純粋の住宅ローン残高だけで8.4兆ドルもあり、それに集合住宅向けローンや商業不動産ローンを含めるとGDP(18.5兆ドル)の9割近くを占めています。つまり米国の景気は不動産(とくに住宅)価格に影響されやすく、これが過熱すると2008年のリーマンショックのような危機となってしまいます。
したがってFRBの金融政策とは、労働市場状況や一般的なインフレ動向ではなく、本音では住宅価格を最も気にしているはずです。またリーマンショック直後に踏み切ったQE1とは、当時市場が崩壊していたMBS(住宅ローン担保証券)を1.4兆ドル(総額で1.7兆ドル)もFRBに押し込むためのものであり、結局FRBの金融政策とは100%住宅市場対策であることになります。
このケース・シラー住宅価格指数は、リーマンショック時から2012年初めにかけて3割近く下落しましたが、2012年9月からFRBが再びMBSを毎月400億ドル買い入れるQE3をスタートしたこともあり、直後から上昇に転じました。
このQE3とは、米国が国有化していたFNMAとFHLMCの資金回収を急ぎ、保有MBSを市場に売却するタイミングに合わせてスタートしたもので、2013年1月からは4~30年国債の毎月450億ドルの買い入れもスタートして長期金利(貸出金利)を押し下げたこともあり、合わせて不動産(住宅)市場が一気に活況となりました。繰り返しですが、FRBの金融政策とは100%住宅市場対策なのです。
ところがケース・シラー住宅価格指数の前年同月比上昇率が2013年3月に10%、翌4月には12%をこえてしまったため、同年5月にバーナンキ議長(当時)がQE3縮小に言及しました。日銀が「異次元」量的緩和に踏み切ったわずか1か月後のことでした。
ただこのときはブラジルなど新興国経済に動揺が見られたため一旦は保留になったものの、QE3は2014年1月から徐々に縮小され、同年10月に完全に終了してしまいました。
そしてその2014年10月にケース・シラー住宅価格指数は4.5%まで低下し、見事に不動産(住宅)市場再加熱の芽を摘んでいました。
さてその後のケース・シラー住宅価格指数はおおむね5%台で推移しており、FRBが利上げに踏み切った2015年12月も5.74%で、少なくとも急いで利上げしなければならない状況ではなかったと考えます。だからその後の利上げができないわけです。
さて最新の(8月の)ケース・シラー住宅価格指数は5.13%の上昇で、昨年末よりさらに低下しています。7月は5.02%、6月は5.13%、5月が5.24%、4月が5.44%でした。最新といっても8月の数字では足元の数字とはいえないと思われるかもしれませんが、住宅売買は約定から資金決済まである程度時間がかかるため(キャンセルになることもあるため)、信頼性のある数字としてはこのタイミングが限度です。
つまり全米主要20都市の住宅価格は足元で前年比5.13%上昇していることになり、そこでFRBは12月に利上げに踏み切れるのでしょうか?
現在の30年モーゲージ金利は3.50%なので、一応は投資収益が確保されています。つまり金利負担に耐えられなくなって住宅を手放す動きは出ませんが、住宅市場が新たな需要を呼び込めるほど活況であるとも言えません。
また足元の米国経済成長率が1%台に落ち込んでいるといわれる中で(7~9月期は2.5%ほどの予想ですが)、5%の住宅価格上昇が持続可能なのか?と聞かれれば、これも微妙な気がします。
要するに足元のケース・シラー住宅価格指数を見る限り、FRBが12月に利上げするためには不十分と考えます。イエレン議長の悩みもまだまだ続くことになりそうです。
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