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2017年03月22日
3月15日(先週水曜日)は米国連邦債務上限引き上げの「期限」でしたが、何の騒ぎもありませんでした。もちろん上限も引き上げられていません。
債務上限引き上げは、過去にはたびたびホワイトハウスと連邦議会の政治的駆け引きの材料に使われたため難航し、実際にクリントン政権時の1995年12月16日~1996年1月6日とオバマ政権時の2013年10月1~16日に、いくつかの政府窓口が閉鎖されています。究極のチキンレースとなるからです。
また同じくオバマ政権時の2011年8月5日には、債務上限を引き上げるための財政赤字削減計画が不十分だとS&Pが米国債格付けをAA+に引き下げてしまいました(現在もそのままです)。
じゃあ、何で今回は大騒ぎにならなかったのでしょう?
そもそも3月15日とは何の「期限」だったのかというと、オバマ政権時の2015年11月2日に成立していた「2015年超党派予算法」により債務上限が2017年3月15日まで「棚上げに」されていました。
要するに「時間稼ぎ」だったわけですが、同時に2016年会計年度(2015年10月~2016年9月)と2017年会計年度(2016年10月~2017年9月)の予算まで承認していました。
つまり本年3月15日までの債務上限は18兆1000億ドルの「まま」ですが、現時点における債務残高は20兆1000億ドルになっているはずです。
さらに「2015年超党派予算法」には、「期限」とした2017年3月15日は新大統領の就任直後であるため(まさか当時は誰もトランプになるとは夢にも思っていなかったはずですが)、さらに「滑り止め」を加えていました。
それが「何も対策がとられなければ、財務省のキャッシュバランス(現金残高)を約250億ドルまで縮小する」というものです。この250億ドルとは2013年10月に政府窓口閉鎖に追い込まれた時点の財務省のキャッシュバランスとほぼ同じで、それだけあれば米国政府が機能不全にならないギリギリの水準に設定したものです。
一応財務省は最近の短期国債入札額を削減しており、直近のキャッシュバランスを昨年末の3700億ドルから3000億ドル弱まで削減していますが、本来はそれを250億ドルまで削減しなければなりません。
それを知っているのか、あるいは意味を理解しているのかが不明なトランプ大統領は、その3月15日の翌日の16日に、国境警備強化やメキシコの壁建設などを含む300億ドルの2017年会計年度国防補正予算と、さらに国防関連予算を540億ドル(10%)増加させた2018年会計年度(2017年10月~2018年9月)予算教書を議会に提出しています。
そもそもトランプ政権では、各閣僚(長官)の議会承認の目途がほぼついたものの、各省庁幹部の政治任用が進んでおらず、予算編成も含む行政執行能力がほとんど備わっていません。またすぐに備わる目途もついていません。
予算関連では行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー長官は2月中旬に議会承認されていますが(51:49でしたが)、このマルバニー長官はもともと歳出増や債務上限引き上げに強硬に反対する超保守派であり、これもトランプ大統領の「一体何を考えて指名したのかが全くわからない」人事となります。
つまり米国の債務上限引き上げは、もともとオバマ大統領の怠慢で1年半も「棚上げ」されている間に上限(18兆1000億ドル)を2兆ドルも超過してしまっており、その債務上限の引き上げを議会と折衝するにもトランプ政権では関連省庁の幹部・スタッフがほとんど揃っておらず、国防費大幅拡大と叫ぶトランプ大統領の指名したOMB長官は債務上限引き上げ反対派となります。
少なくともこの状態で財務省のキャッシュバランスを3000億ドルから250億ドルまで削減しなければなりません。冗談ではなく(間違いなく近いうちに)短期国債を含む国債入札が困難になり、そのうちまた「米国がデフォルトする」と騒ぐ評論家が出てきて市場を混乱させることになりそうです。
国債償還のための国債発行は可能であるため、償還ができない=デフォルトにはなりませんが、前回もそういう騒ぎになった2013年10月17日に「米国債はデフォルトなどしない」を書いていますので、心配な方は読んでみてください。
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