闇株新聞 the book


闇株新聞 the book
発売中です。
よろしくお願いします。

東京電力と米国AT&T

2011年04月15日

東京電力と米国AT&T

 4月6日付けの「東京電力の発電事業と送電事業の分離案」で、今回の原発事故を奇禍として、あまりにも官僚的な電力業界に競争原理が導入されて再編・統合が行われるなら、それは歓迎すべきことであると書きました。
 
 そこで是非参考にしたいと思う事例があります。それは規制に守られた巨大な独占企業であった米国AT&Tが1984年に分割され、競争原理が導入された後の米国通信業界のダイナミックな変遷です。四半世紀も前の話なのですが、今日の東京電力や電力業界の将来を考えるときに非常に参考になると思います。

 日本のNTTも1985年に民営化され、1997年に分割されたのですが、競争原理の導入とは言い難く、その後の通信業界の変遷も日米でまったく違います。しかし、紙面の関係でこの点については、またの機会に書くことにします。 

 AT&Tは1877年にグラハム・ベルが興したベル電話会社が前身です。
 1984年の分割までは、研究開発、機器製造・販売、長距離・国際通信事業、さらには子会社で全国の地域電話事業を行う垂直・水平型の最強の独占企業でした。

 さすがに政府との独禁法上の訴訟が重荷になり、一部の事業を切り離すことにしたのですが、切り離すことにしたのは子会社22社で行っていた地域電話会社でした。これを7社の地域電話持ち株会社の傘下に入れてAT&Tとの資本関係を絶ちました。

 AT&Tは長距離・国際通信事業と、傘下のベル研究所での研究開発とAT&Tテクノロジーズでの機器製造・販売を残し、さらに新規事業に積極的に取り掛かります。つまり一番重要でないのが地域電話事業だと判断したのです。

 分割後、1991年に今まで禁じられていたコンピューター事業に進出しNCRを買収し、1993年に全米第一位の携帯電話会社McCaw Cellularを買収し、さらに1999年に全米第2位のCATV会社のTCIを1100億ドルの巨額資金で買収して全米最大のCATV会社になるなど新規事業を進めます。CATVに進出した理由は、地域電話会社を切り離したので自前の地域電話のインフラを持つということだったようです。

 ところが、すぐに問題が出てきます。
 まず、今までAT&T傘下で言わば身内だった地域電話会社が「競争相手」になり、お互いの領域を攻撃するようになったのです。さらにAT&Tの主戦場である長距離・国際通信にはMCIやスプリントといった新興企業が参入して、ますます競争が激しくなっていったのです。

 1996年電気通信法改正で地域電話会社に長距離通信事業への進出が正式に認められると、ますます地域電話会社が優勢となり、7社あった地域電話会社も競争しながら統合が進み、テキサス州のSBCコミュニケーション、東部のVerizon, 南部のBell South, 中西部のQuest の4社が残りました。

 AT&Tは主戦場の長距離・国際通信事業で劣勢になり、さらにMcCawやTCIの巨額買収で膨らんだ有利子負債が重みになり、2000年のIT不況で大幅赤字となり、一気に資金繰りの悪化、株価急落に見舞われました。

その過程で、分割時に大切に残しておいたAT&Tテクノロジーを(ベル研究所込みで)1996年にルーセント・テクノロジーとしてスピンオフさせ、また1997年にはこれまた分割後の新規事業として取得したNCRをスピンオフさせ、両方とも手放してしまいます。

 さらに2000年4月にCATVや携帯事業など4事業を分社化し、収益連動型株式(Tracking Stock)を発行できるようにしたのですが、結局2001年7月に最成長分野の携帯事業をAT&T Wirelessとして、これもスピンオフさせて手放してしまいます。
 このとき日本のNTTドコモが1兆円以上を出してAT&T Wirelessの16%の筆頭株主になりましたが、まもなく株価急落で9000億円もの減損を余儀なくされました。

 AT&T Wirelessは2004年にSBCとBell Southの合弁会社であるCingular Wirelssに410億ドルで買収されています。NTTドコモは完全に手を引きました。

 CATVの方も、2002年7月にわずか470億ドルでコムキャストに売却してしまいました。

 その後もAT&Tは持ち直せず、2002年4月には株価が5ドルを下回って株式併合を余儀なくされ(5株を1株)、格付けも投資不適格直前にまで落ちてしまいました。

 一方、地域電話会社のSBCコミュニケーションは、主業務の電話事業で収益を拡大し、また他の地域電話会社を統合して大きくなり、ついに2005年2月に旧親会社のAT&Tをわずか160億ドルで買収してしまいました。
 そして社名こそ知名度のあるAT&Tを残したのですが、本社はSBC時代のテキサス州サンアントニオのままで、旧AT&Tの役員は全員追放されました。

 そして、新AT&Tは同じ地域電話会社のBell Southも合併したため、両社の合弁会社のCingular Wirelessは新AT&Tの完全子会社となり、社名もAT&T Wirelessに変えました。
(Cingularは旧AT&T Wirelessを買収していたのですが、これが新AT&T Wirelessになったのです。ややこしいですね)

 つまり、1984年の旧AT&T分割から四半世紀をへて、全米の通信事業者はAT&T(旧SBC)とVerizonの旧市域電話会社の2強が残り(Questも残っているのですが、本当の地域電話会社です)、携帯電話もAT&T WirelessとVerizon Wireless(Vodafonとの合弁会社)が2強なのです。

 旧AT&Tの凋落は時代の読み違いにつきます。そもそも1984年の分割時に一番重要な経営資源が地域電話のインフラだったことを見落としたのがすべてだったと思います。

翻って、日本に10社もある電力会社の中から、横並びや上(官僚)向きの経営でなく、このようにダイナミックな競争を経て勝ち組になる会社がでてくれば、サービスの向上だけでなく株式市場も非常に活性化することになると思うのですが、難しいでしょうね。

平成23年4月15日

Ads by Google

コメントをする⇒
| Comment:0 | TrackBack:0
関連記事
コメント
コメントの投稿
闇株新聞プレミアム

各種メディアに掲載されている闇株新聞の裏・・・

闇株新聞プレミアム
Ads by google
Ads by Google
最新記事
最新コメント
全記事表示リンク
フェイスブック
カテゴリ
カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

04月 | 2017年05月 | 06月
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -


ブログ内検索
Loading
お問い合わせ

※ページが見れない・表示されないという方はお手数ですが、原因究明のためお使いのOSとブラウザを記述の上お問い合わせ頂けますようお願い致します。

名前:
メール:
件名:
本文:

闇株新聞プレミアム

各種メディアに掲載されている闇株新聞の裏・・・

闇株新聞プレミアム