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追加金融緩和を受けて、日本経済はどうなる?

2010年10月10日

 日本銀行は10月5日に追加金融緩和策を発表しました。内容は4年ぶりとなるゼロ金利の復活などもありますが、一番重要なのは日銀による5兆円による国債等の資産買い入れや固定金利オペなどにより総額35兆円規模の量的緩和を行うということです。言うまでもなくその目的は、①低迷する景気を浮揚させ、②株式をはじめとする資産価格を上昇させ、③何よりも最近の円高(とくに米ドルに対して)を緩和させるためです。ところが円高についていえば、その後もどんどん進み、週末にはとうとう1995年以来という81円台に突入してしまいました。
 
 そこで、これらの期待される金融緩和の効果について、いろんな角度から考えてみたいと思います。

① 景気浮揚効果はあるか?

 ここで、量的緩和というのは、中央銀行(つまり日銀)が市場に大量の資金を供給して、その結果、景気を浮揚させようとすることですが、中央銀行が資金を供給する相手は民間金融機関、つまり銀行でしかありません。つまり日銀から大量に資金を供給された銀行が貸出を増やさなければ景気が浮揚しないのですが、皆さんもよくご存じのように、銀行は最近貸出をどんどん減らしており、ここで再度、量的緩和をしても貸出が急に増えるはずがありません。本年8月末現在で全国銀行119行の実質預金総額は561兆円(前年同月比11兆円増加)これに対し貸出総額は415兆円(同比8兆円の減少)となっています。つまり預金総額に対して貸出総額が146兆円も少ないのです。その分、国債を総額125兆円(本年3月末現在)も保有しています。

 前回の量的緩和は2001年3月から2006年3月まで続き、この時は「量」の水準として日銀当座預金残高の目標を、最初は5兆円から開始して、2003年初めから終了の2006年3月まで、おおむね30~35兆円を維持しました。それだけ日銀が日々のオペレーションを通じて銀行に大量の資金を供給していたのです。

 教科書的に説明しますと、日銀当座預金は金利がつかないため、銀行は日銀との日々のオペレーションを通じて結果的に大量の資金が日銀当座預金に残ってしまうと、収益面から好ましくないため、貸付等に回す筈だからです。それではこの間に貸し付けは増えたのでしょうか? 前回の量的緩和が始まってしばらくした2001年12月の全国銀行の実質預金総額は478兆円で、貸付総額は447兆円でした。量的緩和終了時の2006年3月の実質預金総額は525兆円とこの間に47兆円増えたにもかかわらず、貸し出し総額は409兆円と、なんと38兆円も減少していたのです。つまり、前回の量的緩和は、こと貸出の増加による景気浮揚政策ということにおいては見事に裏切られていたのです。

 そして、今回の量的緩和も、目標として日銀当座預金残高は挙げられていませんが、5兆円の資産購入と、30兆円の固定金利オペの合計35兆円と前回と同じ「量」を目標としています。繰り返しですが、大量の資金はすべて銀行に供給されるので、このままではこれが貸付等を通じて景気浮揚策に使われることはほとんど期待できないでしょう。

 現在の銀行の預金金利は金額などによって多少の違いはあるものの、おおむね1年定期で0.04%、5年定期で0.1%程度となっており、さらに引き下げられそうな気配です。さっき日銀当座預金は金利がつかないため、これが積みあがると貸し付けに回すはずだと言いましたが、そもそも大量の預金金利がほとんどゼロであるため、貸し付けに回す動機とはならないのです。現在の実質預金は561兆円あるわけですから、巨額の金利収益が民間から銀行へ強制的に移転されていることになり、これが現在の景気低迷(とくに消費低迷)の大きな要因となっているのです。つまり銀行は、金融緩和の低金利のメリットだけ享受し、もう一つの量的緩和による景気浮揚と言う仕事を全く果たしていないのです。

 確かに、景気後退時の低金利は、預金者の犠牲のもとに銀行経営を健全化し、リスクの許容範囲を増大させ、貸付増加でもって景気を浮揚させる効果があるはずです。ところがかれこれ20年近い金融緩和の中で、巨額のメリットを受け続けてきた銀行が、一向に景気浮揚のために積極経営をしようともせず、ますます保守的経営に向かっているのです。この観点から見て今回の金融緩和は、全く効果がないだけでなく、預金者の金利収入を銀行が奪って還元しないという弊害のみが今後も長期にわたって続いてしまうことになります。(日銀は今回の金融緩和の発表時に、デフレの払しょくが確認されるまで長期にわたってゼロ金利政策を継続すると言っています。)

これ以外に書きたい銀行の悪行は山ほどありますが、今後少しずつ紹介していきます。

 実は、金融緩和の弊害がもう一つあります。銀行はこの有り余る資金で主に国債を大量購入しています。その結果、国債を基準とした金利体系が異常に低くなり、ひいては日本全体の期待収益率を異常に低くしてしまい、これが日本の景気がいつまでたっても良くならない構造的な理由なのです。これは長引く「低い金利で預金を集められる銀行と、低い金利で国債を発行できる国以外に全くメリットがない」金融緩和の最大の弊害と思うのですが、これについてはまた別の機会に書きます。

② 株式などの資産価格を上昇させられるか?
 
 確かに今回の金融緩和発表後の日経平均はやや上昇しています。これは、いくらなんでも資金が大量に供給されるのだから少しくらいは株式市場に回ってくるだろうという期待と、近々米国でも量的緩和が行われそうで、世界的にも大量に資金が供給され続けるであろうとの予想で米国をはじめとして世界の株式も堅調なことによるもので、すぐに日本の景気が良くなると思っている人はほとんどいないと思います。世界的な量的緩和の影響のため、株式だけでなく、債券も商品も同時に値上がりしています。
 日本は前回も長期にわたって量的緩和をしたのですが、米国や欧州の量的緩和はリーマンショックの後の2008年後半に始まったものです。とくに米国はリーマンショック直後に金融システムを守るために緊急避難的な量的緩和を行ったのですが、今回は本格的に景気を浮揚させるために新たな量的緩和に踏みきるといわれています。そういう意味では初めての量的緩和ということになるため、それなりの効果は期待できると思われます。つまり、
最初は量的緩和で資金が大量に供給されることへの期待から株式市場が上昇し、やがて金融緩和の効果と資産効果が景気に反映されるようになり、本格的な株式市場の上昇につながる、というシナリオが期待できると思います。その一方で、20年近い金融緩和と10年近い量的緩和をすでにしてきた日本経済への影響は、銀行の行動が劇的に変わらない限り、ほとんど期待できないと思います。

 しかし前回の量的緩和の期間(2001年3月~2006年3月)、日経平均は2003年秋の7300円台から2007年夏には18000円台まで上昇していました。また不動産価格もかなり上昇し、前回は量的緩和の効果がかなり出ており、今回もそれに近い効果がえられるとの期待があると思います。しかし当時は量的緩和をしていたのが日本だけであり、米国も欧州も新興国もそれなりに景気がよく、十分な投資機会が世界中にあり、したがってそれなりに資金が不足していた時期でした。そこで登場するのが再び日本の銀行です。日本だけが量的緩和をして、量的緩和のメリットを受けられるのが銀行だけですから、世界で唯一日本の銀行だけが資金が大量に余っていたわけです。ただ日本の銀行は自分で投資機会を求めて世界に出ていく能力も意思も全くありません。そこで有り余る資金を短期で世界の銀行の日本支店に円建てで貸し付けることにしました。これだと当時の世界の主要銀行の格付けは日本の銀行よりはるかに良く、しかも短期の円建ての貸付なら全く問題がないと思ったのです。中には、自分が世界の銀行に資金を貸していることすら自覚せず、短期金融市場に資金を放出して、それが大量に世界の銀行に取り入れられていることなど全く気にしていない銀行もあったと思います。つまり、量的緩和で日銀から大量に供給された資金を、深く考えもせず、たんにリスクが少ないという理由で、世界の銀行にタダ同然の金利で貸し付けてしまっていたのです。短期で貸したつもりでも日々ロールオーバーしていけば長期で借りたことと同じになります。
 日本の銀行は、その資金がどう使われているかなど誰も気にしていなかったのですが、そのタダ同然の円資金は世界の銀行を通じてドルに転換され、世界中のヘッジファンドや投資銀行に貸し付けられ、投資機会を求めて新興国を含む世界中の資産を買いあさっていたのです
 
 ここまで書くと、これは「キャリートレードだ」と気がつくと思いますが、その原資の大半が、当時の量的緩和で唯一メリットを受けた日本の銀行が、良く考えずに単にリスクが少ないからとタダ同然で貸し出していたものなのです。もちろんこれを借りてドルに転換して、ヘッジファンドや投資銀行を通じて、米国内や欧州や新興国の株式をはじめありとあらゆるものに投資され莫大な利益を上げていたはずですが、もちろん日本の銀行に、そして日本の納税者である国民にその利益の一部が還元されることは全くありませんでした。
 
 日本の受けたメリットとしては、キャリートレードのおかげで、その期間、為替が比較的円安で推移したこと(105円~135円)、海外の景気が良くなり、株式等が値上がりしたため、またパフォーマンスに余裕が出た(もちろん日本の銀行が気前よくタダ同然で資金を出したからなのですが)投資銀行等が実際に日本株式を買い付けたため、日本の株式もかなり値上がりしたこと、また不動産も同じような構造でかなり値上がりしたため、資産効果で一時的に日本の景気も良くなったことは事実です。
 
 当時は、日本の銀行が資金を気前よく出せたということは、世界にそれだけの資金需要と投資機会とリスクを取れる体力があったからにほかならず、残念ながら現在の世界の状況は全く違っており、今回の量的緩和で同じような資産効果が出ることは全く期待できません。

 このように、日本の銀行や当局が無知なため、知らないうちに世界に大変な収益機会を与え、見返りを全く得られていなかったケースは山ほどあります。これから少しずつ紹介していこうと思います。


③ それでは円高は止まるか?

 見てきたように、前回の量的緩和の期間は、世界で唯一の量的緩和であったため、その資金がキャリートレードに使われて、比較的円安でした。またこの期間の2003年後半~2004年初め、日銀は35兆円ものドル買い介入をしました。これは当時110円前後だったドルを積極的に支えようというより、量的緩和を助けるために行ったと言えると思います。つまりドルを買った決済資金は日銀から銀行に支払われますが、その資金を日々のオペレーションを通じて吸収することなく放置して銀行の日銀当座預金残高に積み上げるようにしたのです。当時の当座預金残高の目標の35兆円を維持するために行った介入ともいえます。もちろんアメリカも同時多発テロの後の経済回復を本格的にするためにドル資金を安定的に保有してもらい、ドルを比較的高値に安定させておく必要があったため、日米の合意による介入であったはずです。

 ところが現在のアメリカは、国内経済の底割れを防ぐために何が何でもドルを安くして国内産業を保護し、さらに本格的な量的緩和にも踏み込むため、ますますドル安になることを容認しています。前回の日本の量的緩和の時の事情と全く違い、キャリートレードが起こる気配は全くなく、今や低金利通貨となったドルそのものがキャリートレードの対象になってしまっているのです。今回の量的緩和によって円高が止まるとか、円安になるとか、介入が世界から容認されるということは絶対にありません。円高が構造的に続きます。

 リーマンブラザースをはじめとして世界の金融機関を経営危機に陥れたサブプライム問題が発生した時、なぜ急激な円高になったかは明確な説明がされていません。「日本は比較的サブプライムの影響を受けなかったため、相対的に経済実態の良さが評価されたのだ。」などと聞いていて赤面しそうなアホな説明が多かったのですが、その理由はただ一つ、サブプライム問題で世界の金融資産の価値が急速に下がったため、ポジションを清算せざるを得なくなり、結果キャリートレードで借りていた円を返済するために、急激な円の手当てが起こったからなのです。サブプライム問題が発生した時は、日本の前回の量的緩和が終了していましたが、金融は依然として超緩和状態であり、キャリートレードも一向に減っていなかったです。サブプライム問題を起こした世界の過剰流動性を引き起こした責任の一端は、日本の量的緩和と、その恩恵を国内の景気浮揚に役立てようとしなかった日本の銀行にあるのです。政界経済はまだその傷跡から立ち直れていません。前回の量的緩和で同じようにキャリートレードが発生して円安になることは絶対にないのです。

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