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トルコ・クーデター失敗の影響はどこに出る?

2016年07月19日

トルコ・クーデター失敗の影響はどこに出る?


 現地時間7月15日の夜(日本時間16日未明)、トルコ軍の一部勢力が突然ボスポラス海峡にかかる2本の橋とトルコ最大のアタテュルク国際空港を閉鎖し、公営テレビ局も一時占拠して「国の全権を掌握した」との声明を出しました。

 トルコ南西部のマルマリスで休暇中だったエルドアン大統領は、すぐさまテレビ局CNNトルコを通じて市民に「街頭に繰り出して軍の反乱に抗議するように」と呼びかけました。多数の市民がそれに応じたのですが反乱軍が市民に発砲したため200人以上の死者と1500人以上の負傷者が出ました。

 空路でイスタンブールに戻ったエルドアン大統領はすぐさま軍の指揮系統を立て直して鎮圧に乗り出し、ほぼ半日のうちに反乱軍はほとんど投降してクーデターは失敗に終わりました。クーデターに関与したとして100名以上の軍幹部、6000人以上の兵士を含む7500人以上が拘束されていますが、その数は時間の経過とともに増えています。

 またエルドアン大統領は多数の判事や警察官を含む9000人もの公務員を解任し(一部は拘束し)、死刑制度復活に言及し、さらに米国在住の宗教指導者・ギュレン師をクーデター「首謀者」として米国に身柄引き渡しを要求しています。

 つまり結果的にエルドアン大統領は国内の「反対勢力」を一掃し、ますます権力基盤を強化したことになります。

 ここでクーデターの鉄則とは、最高権力者(ここではエルドアン大統領)の身柄をまず拘束することです。実際に反乱軍はエルドアン大統領が滞在していたマルマリスのホテルを襲撃していますが、エルドアン大統領はとっくに脱出していた後でした。

 また同じようにクーデターの鉄則は軍の大半をまとめて結束するか、参加しない部隊を無力化する(すぐに動けないようにする)ことですが、実際には「軍のほんの一部が勝手に動いただけ」にしか見えません。トルコ軍は総勢51万人もいますが、クーデターに関わったとして拘束された軍幹部や兵士は数千人です。

 つまり軍の最高司令官(エルドアン大統領)を拘束せず、たかだか数千人の軍幹部と兵士だけでクーデターを起こせば、すぐに制圧されることは明らかです。つまり全くお粗末なクーデターだったことになります。

 この辺からエルドアン大統領の自作自演説まで囁かれています。さすがにそれも無理がありますが、エルドアン大統領が事前に察知していながら素知らぬ顔で対応を進めていた可能性はあります。

 さて今回のクーデターでは米国のオバマ大統領、ドイツのメルケル首相、それに安倍首相まで「トルコの民主的体制を尊重すべき」と早々とエルドアン大統領支持を表明していますが、実はこれは少し説明が要ります。

 もともとトルコは1923年にムスタファ・ケマルがオスマン帝国王家のカリフを追放し、西洋化による近代化を目指すイスラム世界初の世俗国家として建国されました。

 つまりトルコはその他のイスラム諸国とは大きく違い、イスラム教と政治が分離されています。そして建国以来その世俗主義を主導しているのがトルコ軍なのです。

 それに対してエルドアン大統領の最大の目的は、トルコを世俗国家から「イスラム国家」につくりかえることです。トルコは人口の99%がイスラム教徒でスンニ派が多数を占めていますが、そのトルコをサウジアラビア(ワッハーブ派=最も厳格なスンニ派)やイラン(シーア派)のような「イスラム国家」につくりかえようとしています。

 これは世俗国家とイスラム国家のどちらが好ましいかという議論ではなく、今回のクーデター失敗で(世俗国家を主導している)軍も完全に掌握したはずのエルドアン大統領のもとで、一気に「イスラム国家化」が進むことになります。

 イスラム教とは、唯一無二で全能の神がすべてを(もちろん政治も)支配すると教えますが、実際には誰もその神の教えを聞くことができないためイスラム教の最高指導者(エルドアン大統領になるはずです)が神の教えだとして発言すれば、すべてのトルコ国民がそれに従うことになります。

 つまりイスラム教とは、国家や国民をまとめるためには強力な効果を発揮します。それを悪用するイスラム国(ISIS)のバクダディーでも、それなりに国家体制を作り上げています。

 しかしトルコが「イスラム国家」になってしまうと、世界のバランスから見るといろいろ困ったことが出てきます。それは近いうちに続編で解説します。

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残念なことに日本のネット言説は「エルドアンは狂信的な独裁者!軍部は世俗主義を擁護する正義の機関!だからクーデターは成功すべきだった!」一色で、闇株の運営もそれに縋る誘惑から逃れられなかったようですが、まずエルドアンはイスラム原理主義のとんでもない奴だから、こんな奴が指導者では中東が荒れるに決まっているという前提に根本的な事実誤認があります。

はじめに、エルドアンは建国以来ケマリスト政権に弾圧されてきたクルド人に対して、2003年の首相就任から一貫して宥和政策を取り続け、2015年にアイン・アラブの戦いの余波でPKKとの関係が悪化するまで、国内のクルド人から絶讃されていました(ちなみにエルドアンの20年前にオザルというイスラミストの首相が同じことをしようとしましたが、軍部に毒殺されました)。
PKKとの停戦を実現させて国内の治安を安定させ、さらに国境を接するイラクのクルド人とも友好関係を樹立することで、外交上のリソースを生産的な分野に向かわせ、トルコを中東の安定に貢献できる大国に成長させたのは、そもそもエルドアンだったのです。

また、日本人のトルコ論は大半において、民主主義と人道主義と世俗主義をデタラメに混同していますが、トルコの軍部が擁護者を自認するのはあくまでも最後の世俗主義についてだけであり、トルコ軍がクーデターを起こすことで民主主義や人道主義が維持されるわけではありません。論理的に考えても、民主的に選出された歴代の首相を次々と殺害した挙げ句、マスメディアの本社を暴力的に制圧して都合のいいプロパガンダを垂れ流す存在に民主主義を標榜する資格はありませんし(エルドアンがどこぞのジャーナリストと喧嘩したどころの騒ぎではありません)、人道主義についても表面的なイメージとは裏腹にエルドアンに軍配が上がります。むしろエルドアンはこれまで見捨てられてきた貧困者のための社会福祉を充実させたほか、何よりも特筆すべきこととして、韓国、シンガポールと並んで極めて残虐なことで知られたトルコの徴兵制の負担を10年間かけて大きく緩和してきました。最後の点はイスラム化を嫌う都市部の若者にも高く評価されています。もちろんクルド人も「トルコ人の命令で同胞に刃を向けさせられるおそれが減った」と大歓迎です。
イスラミストの政治家に対する世俗主義の戦いという短絡的な構図に便乗したのでは、あれだけ国際メディアに狂信的だの独裁的だのと悪罵されるエルドアンが、それでもトルコの市民に熱烈に支持される背景が全く見えてこないのです。

最後に、「トルコはその他のイスラム諸国とは大きく違い……」とありますが、「その他のイスラム諸国」であるイラクもエジプトもチュニジアもシリアもレバノンも、国民は毎日アッラーに礼拝し、ラマダーンの断食に励む敬虔なムスリムでありながら、統治のレベルでは明確に政治と宗教が分離されており、「大統領の言葉こそ神の言葉!」なる論理での国家運営は行われていないのですが、あたかもイスラム国家ないしイスラミストの政治家が必然的に独裁化するかのような物言いは、中東諸国に対する無知から来ているのでしょうか? 蔑視から来ているのでしょうか?
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